※二年目と三年目のクリスマスプレゼント交換で、どちらもお互いのプレゼントを受け取っていた世界線の一紀主
※一紀からもらえるプレゼントについての内容が含まれています






「……それ、持ってきていたの?」
「うん。せっかくだから、今日一紀くんと一緒に見たいな、と思って」

 いつものサーフボードを抱えて砂浜まで上がってくると、彼女が鞄の中から取り出した冊子――『世界の砂浜』の写真集に思わず目を奪われた。
 一年生の時に参加したはば学のクリスマスパーティで、僕が選んだこのプレゼントが彼女の手に渡り、なおかつ彼女の選んだプレゼントが僕の手に渡ってきたこと。また、その翌年も選んだクリスマスプレゼントが、お互いの手に渡ってきたことは未だ僕にとって忘れられない出来事で。大事そうに写真集を抱えてページをめくる彼女の姿に、なんとなく胸の辺りがくすぐったくなる。

「海に来て砂浜の写真集を見ている人たちなんて、きっと、僕らぐらいだろうね」
「ふふっ、そうだね。でも、こうして波の音を聞いていると他の国の砂浜にも遊びに来た気がしてこない?」

 あったかい海や寒い海の、それぞれに違った風景も肌で感じられたら楽しそう、と微笑んだ彼女の瞳は今日もきらきらと輝いている。
 少し離れた場所には他のサーファーがいるため貸し切りではなかったが、今ここで彼女の一番近くにいるのは僕だけ、ということが何よりも嬉しくて。気を抜けばすぐ顔が緩みそうになる自分自身に、ちょっとだけ溜め息をつく。

「あ。一紀くん、今呆れたでしょ」
「……君に対しては呆れてないよ。今日も元気そうでよかった、と思ってはいたけれど」
「えー、本当かなあ?」

 開かれていたページに視線を向ければ、世界でも珍しいピンク色の砂浜と透明度の高い青色の海がまるで溶けあっているような美しい景色に、現在の僕たち二人が重なる。
 いずれ僕も高校を卒業して、それから少しずつ大人になった先の未来でも変わらず彼女に寄り添うことができたなら。きっと、その時間も幸せなのだろうなと思った。

「この海、とっても綺麗だよね。私と一紀くんみたいで、最近特にお気に入りなの」

 実際にこの景色を見に行くとしたら準備が大変かもしれないけれど、と呟いた彼女が僕と同じように思っていたことを知った途端、とうとう顔の緩みが抑えられなくなる。
 今からすぐに、というのはお互いの状況を考えれば確かに難しいだろう。
 でも、これからも一緒だったら決して不可能じゃない。

「そんなにお気に入り、ならさ」
「うん?」
「いつか、二人でその砂浜も見に行こう。数年がかりになるとは思うけれど、地道に準備を進めていけば行けないこともないだろうし」
「……え、」
「……なに。もしかして、僕と一緒だったら嫌?」

 予想していた反応とは違う返事を返されたので、顔を近付けつつ聞き返せば慌てた彼女が横に首を振った。

「ち、違うよ。すごく嬉しいけど、その……この海って、ハネムーンでも人気の場所らしいから。ちょっと、意識しちゃったというか、」

 ほんのりと赤くなった彼女の顔を見つめてそっちの方か、と内心胸を撫で下ろす。
 万が一僕とは嫌だ、と言われたら少なからずショックを受けただろうけれど、どうやら二人で行くことを想像した彼女は照れているらしい。
 しどろもどろな言い方さえも可愛い、と思わされるのだから恋とは相変わらず厄介なものだ。とはいえ、彼女と恋に落ちたことについて僕は後悔していない。

「そう。君がそんなにも意識してくれるのなら、なおさら旅行先として見過ごせないね」
「い、一紀くん……?」

 そっと肩を抱き寄せて、わざと彼女が僕の身体へ凭れるようにする。去年までの僕にはなかなかできなかったことも、今の僕なら難なくできるようになった。そのことに、僕だってちゃんと大人に近付いてきているのだと実感する。

「この海だけじゃなくてさ。大人になったら、二人でたくさん行きたいところに行こう。君が行きたい場所にも、僕が行きたい場所にも。色々なところへ立ち寄って、僕らだけの思い出を更に重ねられたら。それも、すごく楽しいだろうなと思うから」
「……うん。でも、最初が海外旅行だと緊張しちゃいそうだから。何回か国内旅行をして、二人とも旅行自体に慣れてきた後はどうかな?」
「いいよ。情報収集も大事だし、焦ってトラブルが起きるのはナンセンスだからね」

 寄せては返す波の音と、すぐ傍にある彼女の温もりによって心がほぐれる。
 ……だいぶ気が早いだろうけれど、今年彼女へ個人的に贈るクリスマスプレゼントも、海と関わりがあるものにしようかな。

「一紀くん、」
「ん?」
「生まれてきてくれてありがとう。それから、十八歳、おめでとう。この先も、二人で一緒に大人になっていこうね」
「……こちらこそ。僕の傍にいてくれて、お祝いしてくれてありがとう」

 ほんのちょっと先の未来で、初めて知る景色を前に笑いあう僕らの姿が目に浮かぶ。
 穏やかな波の音に耳を傾けながら、大人になった後もこの幸せが続くことを願った。


(Happy Birthday 20220714)