今年のクリスマスパーティーも恙なく――と、言ってしまったら聞こえが良さそうに感じられるが、やはり先輩もいた二年目までのクリスマスパーティーに比べるとこれといって特筆すべきことも無く、退屈な気分を隠せなかったまま会場を後にした僕は自室で溜め息を吐いていた。
 受験前ということで、秋を過ぎて以降は彼女とデートする機会自体控えめになりつつあった現在。わざわざ今年のクリスマスパーティーが終わったということを知らせるには、もう遅い時間帯だ。
 それでも今日一日が終わってしまう前に、彼女の声を聞いておきたいという気持ちと、もしも彼女が寝ていたら起こしてしまうかもしれないことを申し訳なく思う気持ちとの間で、かれこれ十分以上は既に経過してしまっている気がする。

(僕って、こんなにも優柔不断だったっけ……)

 彼女のことについて考えると、あらゆる意味で調子が狂う。
 それが決して不愉快なわけではなかったが、いい加減にどうするか決断しなくては、と意味もなく自室をうろついていると、今まさに連絡を取ろうか迷っていた意中の人から電話がかかってきて危うくスマホを落としそうになった。

「もっ、もしもし。先輩?」
『あ、一紀くんこんばんは。夜遅くにいきなり電話してごめんね。今大丈夫だった?』

 一瞬僕の声が裏返ったことに気付いているのかいないのか、そこはさておきどうやらいつも通りの彼女の様子にほっとしつつ、電話自体は問題ないことを伝えるとスマホ越しに無邪気な笑い声が聞こえてくる。

「僕も、……実は、君に電話をかけようか迷っていたところだったから」
『そうなの?まだ起きていたから大丈夫だよ。ちなみに、ビデオ通話にしてもらうのもできそうかな』
「?うん、ちょっと待ってて」

 珍しいな、と疑問に思いながらも言われたとおりに通話表示を切り替える。この時になってようやくクリスマスパーティーから帰ってきてしばらく経つのに、未だスーツを脱いですらいなかったことにも気付いたが、今更慌てふためくのもおかしい気がしてひとまず彼女の通話表示も切り替わるのを待っていると。

「……っ、どうしたの?その恰好」

 てっきり普段着でくつろいでいるものと思っていた僕の予想に反し、華やかなドレスを身に纏い、更には薄く化粧もしていた彼女の綺麗な姿を見せられて思わず声が上擦る。

『ふふっ。メリークリスマス、一紀くん!今年は一緒にクリスマスパーティーに出られなかったこと、私も寂しくなっちゃったから思いきってドレスを着てみました。どうかな?』
「どうかな、って……そんなの、エクセレント、以外に言葉が見当たらないんだけど。あ、もしかして先輩、髪も編み込んでいたり……する?」
『えへへ。そこにも気付いてもらえて嬉しいなあ。あ、そういえば一紀くんも今スーツだったんだね?去年も思ったけど、一紀くんもそのスーツ、よく似合っているよ。かっこいいね』
「えっ?!あっ、ありがとう……」

 寂しくなったから、という理由でドレスを着た彼女が僕に電話してきてくれた事実だけでも喜ばしかったのに、正直着替え忘れていた自分のスーツ姿まで突然褒められたため、心臓が今にも爆発しそうな勢いで早鐘を打つ。

『来年は、一紀くんの進路が決まる大事な年だから。こうして電話越しでも会えてよかった。受験が終わるまで、もうしばらくの間は一緒にお出掛けする機会も少なくなっちゃうかもしれないけれど……会えない時も一紀くんのこと、応援しているからね。風邪、ひかないように気をつけて過ごしてね』

 赤くなった顔をからかわれるかもしれない、とも思ったが、そんなこともなくむしろ穏やかな表情で僕のことを心配してくれる彼女の優しさに触れて、どうしようもなく頬が緩んだ。

「……、うん。僕も、久し振りに君の姿を見られて嬉しかったよ。電話、かけてきてくれてありがとう。こんな時間じゃなかったら、直接、君に会いにいきたかったくらい」
『ふふ。その言葉を聞けただけでも、今夜はおめかししてみてよかった。改めて、メリークリスマス、一紀くん。ちょっと早いけれど、来年も引き続きよろしくね?』

 ここがもしもあのクリスマスパーティーの会場だったなら、僕は間違いなく君を抱きしめていたに違いないけれど。
 直接会えずとも、彼女の思いが充分に伝わりすっかり幸せな気分に満たされた僕は、愛しい彼女に対して心からの笑顔を浮かべていた。

「メリークリスマス、先輩。こちらこそ、来年どころかその先もずっと、よろしくね」