「私って、そんなに子供っぽいのかなあ」

 今週売り出されたばかりの雑誌をぱらぱらとめくりながら、拗ねたような口調でが呟く。開いたページにはおそらく大学生以上と思われる女性モデルが載っていて、いかにも大人っぽい黒のシックなワンピースに真っ赤のハイヒール、更には身に着けた赤い口紅も含め記憶に印象強く残させるような、随分と艶めかしい表情でへ微笑んでいた。
 特にこういうのが好きなやつには堪らない恰好なのかもしれないが、正直高校生という年頃にはまだ早すぎる系列だと思った俺は、目を細めつつその雑誌へと手を伸ばす。

「俺からしたら、あんたはごく普通の女子高生らしいと思うけど……いきなりこれに挑戦するとなると、ちょっとハードルが高いかもね」
「そうだよねえ。憧れないわけでもないけれど、このモデルさんほど胸を張って歩けるかって言われると、その前にまず気後れしちゃいそう」
「まあ、正直色合いにもよるとは思うけど。赤い口紅は服との組み合わせが悪いと逆に悪目立ちする可能性もあるし、あんたの場合は赤よりもまずはパステル寄りのピンクとか、オレンジみたいな明るい色の方が印象も爽やかになるんじゃない?」

 もしかしたら誰かに何か言われたのかもしれないが、よかれと思って自分の意見を口出ししてみたところ素直にうんうんと頷いているを見て、やっぱりこの恰好はまだ早いだろうなと溜め息を吐く。
 黒のワンピース自体、似合わないわけではないだろうけれど、なんとなくもう少し年齢を重ねてからの方がには似合いそうな予感がした。

「赤いハイヒールって、すごく大人の女性って感じがしてかっこいいなとも思ったんだけど、歩き慣れない内は足首痛めそうだよね。皆足首痛めながら、頑張って履いているのかな」
「ああ、うん。そりゃ、慣れない内はね……ていうか、高校生でいきなりハイヒールよりかは、こっちのパンプスの方が俺としてはあんたの雰囲気とも合いそう」
「えっ、どれどれ?」

 雑誌の中で真っ赤ではなかったものの、落ち着いた臙脂色でハイヒールに比べればずっと履きやすそうなパンプスを指差してやった途端、きらきらと目を輝かせて誌面に釘付けとなった分かりやすいに自然と笑みが零れる。

(そんなに急いで大人にならなくたって、あんたは今のままでも十分可愛いよ)

 それでも、どうしてもハイヒールを履いてみたいって言うのなら。
 ――いつかあんたが、一人前のレディになった時。うっかりこけてしまわないように、俺があんたをエスコートするのも悪くはないのかも、なんて。
 今はまだ言えそうにもない言葉を胸中にしまいこみ、年相応にはしゃぐにはばれないようにもう一度、溜め息を吐いていた。